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読書2011

三国一の読書野郎※289

痛快時代劇アクション?

 今年の読み納めになるかな。中谷航太郎「ヤマダチの砦」を読み終える。ヤマダチとは山賊のこと。藩の内紛に巻き込まれたノーテンキな若侍と、山の民(サンガをイメージしているのだろう)の若者が、凶悪な山賊集団と戦うお話。新潮文庫書き下ろし。最近は新潮文庫も変わったもんだね。

 著者の中谷は、本職はカメラマン。なるほど、アクション場面なんかかなり、イメージ先行の感じがするもんな。

 まあ、一気通巻に読めます。何も考えずに見ることができる、ハリウッドのアクション映画のようなもんだ。こういう小説も必要です。出張の飛行機の中で読み終えることができるような小説ですね。

<口上>飛騨の小大名・山谷藩江戸家老の三男・苗場新三郎。育ちはよく背が高く逞しい肉体、そして端正な風貌なれど、品性下劣な戯け。ある日、父に使いを頼まれ、京へ出立した。箱根の峠を過ぎた時、ヤマダチ(山賊)一味に取り囲まれるが、その窮地を救ったのは屈強な若者。彼は山から山へと渡り歩く民だった。そして山賊の襲撃にはある陰謀が…。圧倒的な迫力で描く、書下ろし時代活劇。

三国一の読書野郎※288

すごい才能だ

 安藤モモ子の小説「0・5ミリ」を読んでみた。実に、面白い小説に仕上がっているのである。才能だな、と感心した。ぐいぐい、読ませるのである。たいしたもんだ。

 ところで、安藤モモ子って誰だ? と思って調べてみたら、奥田瑛二、安藤和津の娘かよ!奥付の経歴にはロンドン大学芸術学部を次席卒業(次席というのが微妙だね)とある。主に、映像畑で活躍しているようだが、この小説のクオリティーは半端じゃないぞ。人物造形が実に見事である。う~む、世の中にはいろいろな才能があるもんだ。翻って、自らを省みよう。

<口上>肉親もなく、流産をし、一生子供を産めなくなったサワは、介護ヘルパーとして老人とかかわることで、孤独を埋めようとしていた。「おじいちゃんと一緒に寝てあげて欲しいの」。派遣先の家族からの頼みごとを断れず、老人と添い寝をすることになったサワは、その夜思いがけない事件に巻き込まれ、職を失う。無一文になった彼女が日々の生活を営むために取った行動。それは、町で見知らぬ老人に声をかけ、無理やり世話をし、同居することだった。

0.5ミリ

三国一の読書野郎※287

その才能、恐るべし

 絲山秋子という作家を私は高く評価している。彼女の描き出す作品世界の屹立性は、群を抜いている。そんな彼女の最新長編「不愉快な本の続編」を読み終える。傑作である。軽いタッチながら、結論としては重苦しい本である。それが、私の言うところの屹立性である。感動した。こうい作品世界を未だ構築し続けていくという作家の姿勢に。それは自ら以外の全世界への抵抗宣言なのである。現在、作家がなすべきことは、それしか、ない。ない、はずだ。それを自覚的/無自覚的になしているこの作家の才能を畏怖するのである。

<口上>女と暮らす東京を逃げ出した乾。新潟で人を好きになり、富山のジャコメッティと邂逅し、そして故郷・呉から見上げる、永遠の太陽―。不愉快な本を握りしめ彷徨する「異邦人」を描き、文学の極点へ挑む最新小説。

不愉快な本の続編

三国一の読書野郎※286

意外な掘り出し物

 三羽省吾という作家の「JUNK」なる小説を読む。全く未知の作家であったが、「へえ~」と思わせてくれた。拾い物かもしれぬ。こういう出会いがあるから、読書はやめられないんだね。

 「悪」を描いて「俗」に落ちない、なかなかのテクニックです。感心しました。調べてみると、すでに、何冊かの作品を出しているようです。早速、年明けに読んでみます。

<口上>都内某刑務所前。つぶれかけた粗末な飯屋がある。そこの手伝いて、刑務所を見張り、ある男が出所したら知らせてくれと頼まれた俺。ヤバさを感じながらもおいしい条件に承諾したが、案の定、面倒なことになっていく…。善人ではない。かといって悪人でもない。強かだけど時に脆い。そんなわたしたちを見つめ、見守ってくれる傑作小説集。「指」「飯」の2編を収録。

Junk

三国一の読書野郎※285

千歳の焼き鳥屋の話

 「言霊居酒屋」を読む。著者は千歳市内で焼き鳥屋を営む70歳の男性である。

 著者とおぼしき焼き鳥屋の主人とその妻、店にやってくる有象無象の人々が紡ぎ出す物語。悪意と底意地の悪さが交錯する、そしてユーモア漂う独特の作風である。オヤジ、良い味出してるぜってなもんである。

 この著者、注目だ。「千歳の西村賢太」になってもらいたい。

<口上>『言霊居酒屋』の登場人物が言っている通り、言葉には人を動かす力がある。いっこうに動きだそうとしない怠惰な人間を突然走らせることもある。この本はまさしく、そういう言霊に触発されて生まれ出たといっても過言ではない。(あとがきより)

言霊居酒屋

三国一の読書野郎※284

イタリア農民の貧しさを知る

 「パスタでたどるイタリア史」を読む。著者の池上俊一は西洋中世史専攻の東大教授。岩波ジュニア新書は、高校生が対象なのだが、専門家がわかりやすさを基調に執筆しているので、本家の岩波新書より面白いくらいである。

 今でこそ「イタリア=パスタ」という方程式が成り立つが、イタリア農民は貧しく、ようやく日常的にパスタが食べられるようになったのは19世紀になってからだそうだ。しかし、パスタはイタリアの各地域に根付き、それぞれ独自の発展を遂げた。その成り立ちが詳述され、楽しく読める。「

<口上>パスタを食べることでイタリア人はイタリア人であることを自覚する」―。地域色の強いイタリアで、人々の心を結ぶ力をもつパスタ。この国民食は、いつ、どのように成立したのでしょう。古代ローマのパスタの原型から、アラブ人が伝えた乾燥パスタ、大航海時代の舶来種トマト、国家統一に一役買った料理書まで。パスタをたどると、イタリアの歴史が見えてきます。

パスタでたどるイタリア史 (岩波ジュニア新書)

三国一の読書野郎※283

この人がいれば・・・

 東日本大震災から9か月が過ぎるも、なぜか復興は遅々として進まぬ。「政治」が足を引っ張っているのだ。情けない。

 後藤新平という人物がいた。現在の岩手に生まれ、医者として身を起こすも、その後、めざましい出世を遂げる。満鉄総裁、東京市長などなど。そして、関東大震災後、山本権兵衛内閣の内務大臣として、わずか4か月で震災復興計画を練り上げる。それもまた、「政治」に干渉を受けたのだが、そのスピードたるや、現在の内閣とは比べものにならない。

 北大工学部教授による「後藤新平」を読むと、「ああ、この人がいれば」という気分にさせられるのである。

<口上>東日本大震災を機に、関東大震災後の帝都復興に稀代のリーダーシップを発揮した後藤新平が再び注目され始めた。なぜ後藤のような卓越した政治家が出現し、多彩な人材を総動員して迅速に復旧・復興に対処できたのか。壮大で先見性の高い帝都復興計画は縮小されたにもかかわらず、なぜ区画整理を断行できたのか。都市計画の第一人者が「日本の都市計画の父」後藤新平の生涯をたどり、その功績を明らかにするとともに、後藤の帝都復興への苦闘が現代に投げかける問題を考える。

後藤新平: 大震災と帝都復興 (ちくま新書)

三国一の読書野郎※282

ブランドの消失。もしくは日本凋落の象徴

 「ソニー」といえば、私たちの世代からすると、高い技術の象徴であり、戦後日本を支えてきたメーカーである。しかし、そのソニーがいま、断末魔の悲鳴を上げている。その現状を伝える立石泰則「さよなら!僕らのソニー」は実に衝撃的なレポートである。

<口上>ウォークマンに代表される「技術のソニー」ブランドはなぜかくも凋落してしまったのか。それを解くカギは大賀、出井、ストリンガーと続く経営陣の知られざる暗闘にある。そして、経営の失敗がいかに企業ブランドに影響を与えるか、その恐さが見えてくる。ソニーで起こっている経営問題は決して他人事ではない。

さよなら!僕らのソニー (文春新書)

三国一の読書野郎※281

被害者家族はどこまで復讐できるか

 異なる4件の犯罪の被害者の家族たちが、加害者に復讐を誓う。しかし、彼らが具体的な行動を起こす前に、加害者たちは次々に殺されていく。こんなストーリーの森村誠一「エネミイ」を読む。

 途中までは引っ張るのだが、後半は息切れである。冒頭のエピソードが伏線になっているのであろうことは誰の目にも明らかだから、ミステリ的にも弱い。「社会派推理」といっても、これではなあ、と思わせる一冊でした。森村誠一の作品は読んだことがないから、彼が衰えたかどうかは判断できませんが。

<口上>社員の裏切りに遭い自殺した中小企業社長の娘。婚約者を暴漢に拉致され轢殺された男。暴走族によって愛娘を下半身不随にされた父。暴力団抗争の巻き添えで、幼い娘を射殺された父。愛する家族を喪った4人の犯罪被害者が一軒の喫茶店に集まった。彼らは報復を誓っただけだったが、その後4人の加害者は次々と殺されていく。4件の殺人事件を結ぶ接点とは何か。

エネミイ (光文社文庫)

三国一の読書野郎※280

口は災いの元

 その通り。最近は痛感している。言わなくても良いことを言った結果としての苦境。その責任は引き受けなければならない。

 今村守之「問題発言」は、まさにその一言が命取りになった舌禍事件の記録である。新しいところでは「皆さんの前で腹を切ります」(島田紳助)なんてのもある。まずいよなあ。

<口上>政治家は激情にかられて口走り、財界人はつい本音を漏らし、芸能人はうっかり口を滑らせ、スポーツ選手は浅はかにしゃべり、マスコミは煽情を先走らせた…かくも愚かで、あまりに理不尽、思わず失笑してしまう暴言、迷言、珍言が満載。終戦から東日本大震災の2011年まで、66年間に放たれた発言は、どのような問題を引き起こしてきたのか?「舌禍」の日本戦後史。

問題発言 (新潮新書)

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