三国一の読書野郎2012※38
やっぱり同じ馳星周なのだが
本土復帰前の沖縄を舞台にした馳星周のノアール「弥勒世 上下」を読む。上下で1200ページにも及ぶ大長編である。暗い、実に陰鬱な小説である。そして、後半に行くに従って、いつもの馳星周のように、ばかばか人が死んでいく。やはり、いつもと同じ馳星周なのである。
<口上>返還前夜の沖縄の現実を抉り出す暗黒小説。コザで英字新聞の記者を務める伊波尚友はCIA局員から反戦活動に関するスパイ活動を迫られ承諾。激化するベトナム戦線をめぐる黒人と白人の対立、地元住民の不満が燻る中、反米活動を続けながら情報を集めていく…。
<双子山の目>しかし、である。これまでのノアールと違い、馳星周は沖縄を愛しているのではないか? かなり、力を込めて書き込んだ小説であることは間違いない。当時の沖縄の状況を、詳しく取材している。
当時の沖縄の人々が置かれていた屈辱的な立場。米軍の傲慢。日本政府の欺瞞。これらすべてに、馳星周は激しく、怒っている。その怒りのパワーを、作品に激しく、ぶつけている。ここまで政治的な立場を明らかにするのは珍しい。
だから、読者的には満足しないかもしれないが、最後まで静かなトーンで語り続ければ良かったのに、と残念な気もするのだ。いつも通りの「破滅」」パターンにせずに、別の落としどころがあったのではないか?
しかし、今のところ、馳星周のベストであると思う。文庫化されたが、もっと読まれてよい。「最低でも県外」野郎が引き起こした混乱の中にある今こそ、沖縄返還の意味を日本人はもっと考えるべきなのかもしれない。
双子山評定:☆☆☆☆。でも、長すぎる
« 三国一の読書野郎2012※37 | トップページ | 三国一の読書野郎2012※39 »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 三国一の読書野郎2017※番外編(2017.03.04)
- 三国一の読書野郎2017⑩(2017.01.22)
- 三国一の読書野郎2017⑨(2017.01.21)
- 三国一の読書野郎2017⑧(2017.01.15)
- 三国一の読書野郎2017⑦(2017.01.14)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント