三国一の読書野郎2012⑥
面白いとは思う
直木賞候補作、お次は伊東潤「城を嚙ませた男」である。初めて読む作家だ。1960年生まれで、外資系企業に勤務後、時代小説を書き始めたという。作品は、戦国末期、北条と徳川が拮抗するころの関東を舞台に、虚々実々の武将たちの腹の探り合いを描く連作短編である。
<口上>「全方向土下座外交」で生き延びた弱小勢力もついに運の尽きが。起死回生はあるのか(見えすぎた物見)。落城必至。強大な水軍に狙われた城に籠もる鯨取りの親方が仕掛けた血煙巻き上がる大反撃とは(鯨のくる城)。まずは奴に城を取らせる。そして俺は国を取る。奇謀の士が仕組んだ驚愕の策とは(城を噛ませた男)。のるか、そるか。極限状態で「それぞれの戦い」に挑む人間の姿を熱く描いた渾身作。
力量ある作家だと思う。文章も端正だし、目の付け所も面白い。これまで、あまり取り上げられることのなかった人物を描き出し、示唆に富む。
しかし、どこか、弱い。軽い、といっても良いかもしれないが、作品の「芯」が感じられないのだ。
たぶん、「芯」は作品を書き続けることによってしか生まれないだろう。だから、もっともっと、書き続けるべきだろう。この人なら、それは可能だろう。
双子山評定:☆☆☆★。面白い、読ませる小説です。
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