本を読む日々2009※44
人間の尊厳とは何か?
映画化を機に書店で平積みになっていた山崎豊子の「沈まぬ太陽」を通読した。いやはや、すごい話だ。全5巻を一気読みである。
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沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫) 著者:山崎 豊子 |
<あらすじ> 国民航空(もちろん、日本航空がモデル)社員・恩地元。労組委員長として会社側と激しく対立したため、報復として社の内規を無視した人事を強行される。パキスタン、テヘラン、ナイロビと海外赴任は10年にも及び、会社側は帰国と引き換えに屈服を迫る。
一方で会社の息のかかった第二組合はその勢力を伸ばす。分断政策により、第一労組は露骨な差別的待遇を余儀なくされる。
労働委員会裁定により、ようやく帰国する恩地だが、閑職の場に追いやられる。しかし、運命の日はやってくる。御巣鷹山にジャンボジェットが墜落し、520人が亡くなった「あの日」である。恩地は遺族係として現地対応に追われる。
利潤追求の会社の体制が御巣鷹山事故を招いたことは間違いない。政府は社の立て直しのため、関西紡績の会長・国見正之に会長就任を要請する。恩地は会長室の部長に就任し、国見の懐刀として動くが、腐敗した組織はすでに自浄作用を失っていた。
<能書き>刊行当時もずいぶん、話題になった。モデルもいて、「事実と異なる」などの異議申し立てもかなりあったと記憶する。
しかし、日本航空という会社が利権屋と既得権を主張する勢力に完全に食いつぶされてしまったことは、昨今の経営危機を伝える報道からも明らかである。唖然とするのは、御巣鷹山を経験したのに、その経験がなんの実も結んでいないことだ。520人の死を無駄にしてしまっていることだ。
恩地は決して、屈しない。理不尽な会社側の要求に断固として「否」という。「アカ」のレッテルを張られ、人事をもてあそばれても、ともに戦った仲間のためにも、会社を辞めるという選択を取らない。そこに人間の尊厳を観る。
モデルがいて、その人についてはいろいろな見方もあるそうだ。しかし、小説における恩地は確かに威厳に満ちている。
映画化はあまりにタイミングがよすぎるかもしれないが。
⇒☆☆☆☆ 「空の安全」という言葉を日航幹部はどのように考えるのか。正味な話、出張のとき、日本航空は使いたくない。
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