本を読む日々2009※33
「軍神」の光と影
司馬遼太郎「殉死」は、日露戦争の第3軍司令官として苦闘、203高地攻略で知られる乃木希典の内面に迫った人物評伝とでもいったらよいのか。とにかく、小説ではない。
司馬は乃木の軍人的能力を「無能」とする。これは本当に当たっているようで、西南戦争で軍旗を奪われたこと、さらに日露戦争の旅順攻撃における頑なまでの正面突破の連続でそれは明らかである。多くの兵士を無駄死にさせたことは確かなのだ。児玉源太郎という友がいたからこそ、203高地は落ちた。これも確実なのだ。
一方で乃木は非常に文学的な心性を持っていたと司馬は指摘する。明治天皇崩御後、妻とともに命を断つという行為はまさしく、その文学性の発露であった。
軍人的無能力さと文学的心性。この両者の危ういバランスの中に、乃木という人間はいた。その死によって「軍神」として乃木の物語は完結するのだが、ここに明治という時代のひとつの限界性もまた、あるような気がする。
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