書評2008◎42
吉村昭を読み続ける
吉村昭の作品を読み続けている。今回は「ニコライ遭難」。明治24年、来日中のロシア皇太子、ニコライ(後のニコライ2世)を、琵琶湖畔の大津で警護中の警官が襲った大津事件を描いている。
ニコライ遭難 (新潮文庫) 著者:吉村 昭 |
国を挙げてのニコライの歓待ぶり、さらに日本文化に触れて喜ぶニコライの様子などがいきいきと描かれている。何しろニコライ、船の中に刺青師を呼び、腕に彫り物までさせたそうである。
事件後のニコライは比較的冷静で、けがも軽かったことから東京まで行きたかったようだが、ロシア王室から帰国命令が出たため、帰らざるを得なかったそうだ。のちにロシア革命により命を落とすことになるニコライは、どこか暗愚の帝王のような感もあるのだが、そんなことはない。帝王学をしっかりと身につけた人物であったようだ。
当時の大国・ロシアの皇太子にけがを負わせたのであるから、どのような無理難題を吹っ掛けられるか分からない。事件後、明治政府は犯人・津田三蔵を死刑に処し、ロシア側の機嫌を取ろうとするが、刑法上、外国人要人にけがを負わせただけでは死刑にはできない。あくまで、法を遵守しようとする司法当局と、死刑にしようとする政府有力者の軋轢もまた、すさいまじいものがあった。司法の独立を守った当時の大審院長は児島惟謙である。
事件後、明治天皇はすぐさま京都に向かい、ニコライを見舞った。
維新後24年。近代国家の構築の中で見舞われた難問に、国としていかに対処したか。危機管理論としても読むことができる歴史長編である。
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