本を読む129
捕虜の心理に迫る
吉村昭の小説が好きだ。端正な文体もあることながら、資料を徹底的に読み込む真摯な創作的姿勢が好ましい。
「背中の勲章」は1971年発表の作品だ。
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背中の勲章 (新潮文庫) 著者:吉村 昭 |
1942年4月、太平洋上でアメリカ機動部隊を発見した漁船改造の特設監視艇・長渡丸は、「敵艦隊発見」の報告を打電後、撃沈される。生き残った中村一等水兵ら5人は捕虜となり、ハワイやアメリカ本土を転々としながら、背中に「PW」と書かれた囚人服を着せられ、抑留生活を送る。帰国したのは1946年のことだった。
初めは中村以下、数人しかいなかった捕虜がミッドウェイやガダルカナルの敗北など、戦局の変化で次々と増えていく。さらにサイパン陥落、沖縄戦の敗残兵が続々と収容所にやってくる。しかし、彼らは敗北を認めない。「日本の勝利」を盲信している。なぜ、そこまで信じることができるのか? そこに戦前日本の狂気を指摘することはたやすいのだが、集団心理としての盲信が、個人レベルの隅々にまで行き渡っていたことについては、背筋が寒くなる思いがする。
そしてその盲信が戦後、なぜたやすくとかれていったのか。
日本社会の心理分析としても非常に興味深い視点を提供してくれる戦記文学といえる。固い文章ながらリーダビリティーは抜群によく、あっという間に通読できた。
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