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本を読む125

行間から死臭漂う迫力

 吉村昭「関東大震災」を読了する。大正12年9月1日御前11時58分、関東地方を襲い、20万人の命を失った未曾有の大災害を克明に描き出している。行間から死臭が漂うような迫力を感じた。傑作だ。

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 被害の大きさの背景には人災もあったようだ。身体ひとつで逃げずに、大八車などに家財道具を満載して逃げる人々も多かったため、荷物は狭い道をふさぎ、さらに引火して被害を拡大させた。およそ60年前に江戸を襲った安政の大地震の教訓が、まったく生かされなかったという。

 その挙句、本所区の陸軍被服廠跡では3万8千人が焼死した。火災に伴う烈風が荷車ごと馬をも吹き上げていったなどの描写もすさまじい。

 地震直後の人心は混乱し、自警団などが朝鮮人虐殺を引き起こす。流言飛語の流通などは地震後、当時の内務省などが熱心に検証したそうで、噂の伝達の速さは驚くばかりである。

 死体処理にも時間がかかった。相場よりかなり高めの給金で処理人夫を雇ったのに、死体のすさまじさに音を上げ、88人のうち1日もったのが4人しかいなかったという。さらに、排泄物も垂れ流しになり、東京市全体に糞尿の匂いが充満したなどなどのエピソードが何気なく、悲惨さを裏打ちしている。

 吉村昭の文章は良い意味で硬い。カチッとしている。その文体で、悲惨なエピソードなどを読み続けていると、何だか公の報告書を読んでいる気分になる。そこに私情も空想も入らないから、凄みを増してくるのだ。

 この大災害の22年後、東京はさらなる仕打ちを経験する。米軍による無差別絨毯爆撃だ。嗚呼、悲惨なる都市、東京よ。東京に、安らぎあれ。

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