本を読む122
時代の激動をいかに感じ取るか
吉村昭の「生麦事件 上・下」を通読。この人の「桜田門外ノ変」「天狗争乱」と続けて読んでくると、幕末から明治維新に続く歴史のダイナミズムが、リアルに伝わってくる。司馬遼太郎もいいけれども、吉村ももっと評価されてよい作家ではあるまいかと思う。
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生麦事件〈上〉 (新潮文庫) 著者:吉村 昭 |
文久2年(1862年)9月、薩摩藩・島津久光の大名行列に遭遇した騎馬の英国人が斬殺された「生麦事件」を発端に、諸外国と幕府、薩摩の三者の思惑が絡み合い、歴史を突き動かしていくさまを抑えた筆致で淡々と描いていく。ここに「攘夷」で固まった長州もかかわり、状況は複雑な様相を呈する。
幕末もこの段階では、幕府から聞こえてくるのは断末魔である。一方、維新を担うことになる薩長は狡猾である。イギリスと戦っても、ただでは敗北しない。声高に叫んでいた攘夷の旗印さえ捨て、幕府を追い詰めるだけの軍事力・技術力を獲得していく。
結局、水戸藩は攘夷に拘泥しすぎて自滅して行ったが、薩長は転向した末に生き残り、主導権を握った。歴史はどこに流れているのか、その潮目をしっかりと見据えることこそが、為政者のなすべきことなのであろう。
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