本を読む32
最後の2行
名作との噂が先行するも、ほとんど入手不可能だったミステリが新訳で復活した。ウィリアム・モール著「ハマースミスのうじ虫」だ。
ハマースミスのうじ虫 著者:ウィリアム モール |
単純にまとめてしまえば、恐喝犯と、彼を追う素人探偵の物語だ。
ロンドンのワイン商キャソンは、ある夜、不自然な酔い方をしている顔見知りの銀行家に会う。銀行家は、事実無根の恐喝を受けていた。事実無根なら、跳ね返せばいいのだが、裁判でも起こされたら、たとえ一切の事実がなくても、銀行家は致命傷を負う。そこまで計算した上での、卑劣な脅しだった。「同じカモは二度と狙わない」という冷静な犯罪者の口車に乗り、銀行家は金を渡してしまった。
完全犯罪を狙う恐喝者の見てくれは、なんとも没個性で、その線からは犯人にたどり着くすべはない。しかも、銀行家は「終わったこと」ととして、警察に捜査を求めることも拒否する。唯一、手がかりになりそうな情報は、恐喝のさなか、犯人は銀行家の部屋に飾ってあったローマ時代の大理石の胸像に強い関心を示したということだった。この情報だけを頼りに、キャソンは恐喝者を追い詰めていく。
派手さは一切ないが、「容疑者を追い詰める」というミステリの原点のようなプロットは飽きさせない。追うキャソンと恐喝者の追跡劇として、緊張感漂うミステリだ。そして、なんともイギリスらしいというか、この社会における「階級」が、物語の背景にどっしりと構えていて、興味深い。イギリス人しか書き得ない小説なのだろう。
そして驚愕は最後の2行。著者がこの2行を書きたいがために、書かれた小説なのだろう。
1954年発表の作品。著者はイギリスの諜報機関、MI5の職員だったという。いわば007のモデルのような仕事をしていたらしい。
☆86点⇔とにかく読んでみて、「最後の2行」に対する評価を教えて欲しいね
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