本を読む⑯
暴力のとらえかたについて
アメリカの警察官は犯人逮捕に当たり「ミランダ警告」の告知が義務付けられている。よく、映画やテレビでも描かれている。刑事が叫ぶのだ。「逮捕する。あなたには黙秘する権利がある。あなたの発言は法廷であなたにとって不利な証拠として扱われる可能性がある」と。
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あなたに不利な証拠として 著者:ローリー・リン・ ドラモンド |
ローリー・リン・ドラモンド「あなたに不利な証拠として」(ハヤカワ・ミステリ)のタイトルは、まさしくこのミランダ警告から取られている。アメリカ南部・ルイジアナ州バトンルージュ警察署を舞台に、男性社会の中で呻吟する5人の女性警察官の姿を生々しく描いた連作である。著者は実際に同署で制服警察官として勤務した。5年勤めた後に辞職。その後、執筆の道に入った履歴があるということだ。
なんとも暑っ苦しい短編集だ。南部が舞台だからというわけではなく、それぞれの短編が扱うテーマが重いからでもあろう。ポケミスに収録すべきだったのかとの疑問も残る。ミステリというよりも、純文学的な重さがずしりと、腹にこたえるのだ。
その重さは女性警察官が主人公だからでもある。しかし、それはページを繰る指の動きを鈍らせる重さではない。逆に、早めると言ってもよい。優れた書き手ではあると思う。
しかし、やはりアメリカ。暴力そのものについては極めて無自覚だ。それだけむき出しの暴力が、アメリカには顕在しているということなのだろうが。23日付の読売新聞の書評欄で翻訳家の深町眞理子氏(ルース・レンデルの翻訳で有名だね)も書いていたけど、この作家は自らの国というか、コミュニティーが抱えている暴力性に無自覚すぎるのだ。収録作品のうち「生きている死者」をどのようにとらえるか。難しいと思う。
このアメリカという国、男も女も、徹底的に自らが「殺す主体」であって当然のような顔をしている。空恐ろしい国ではある。
読んでいないのだが、池上冬樹という書評家がこの本を朝日新聞紙上で絶賛。それゆえに、最近のポケミス中では、異例の売れ行きだそうだ。
☆82点⇔暑い日に読むと、汗みどろになる。たまにはいいか、そんな経験も
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