本を読む⑥
生きる意味について
![]() |
![]() |
栄光なき凱旋 上 著者:真保 裕一 |
3人の日系2世がいる。立場はそれぞれ、異なる。白人社会に適合し、社会的な成功をほぼ約束されたヘンリー。日本で過ごした過去を持ち、それゆえに日本にもアメリカにも親しみきれないジョー。順風な学生生活を送り、白人女性との結婚を約束したパット。
3人の未来を、「パール・ハーバー」が破壊する。
太平洋戦争開戦直前から、3人の軌跡を追いながら、「日系史」を構築していく。著者の狙いはそういうことだろう。
著者の執筆動機としては、この欄で私が腐した福井晴敏「ローズ・ダスト」にも共通している部分があるのではないだろうか。要は、今の日本及び日本人が緩んでいて、ゆえに、そこに何らかの「外圧」を加えたいというモチベーションだ。
この作品は福井昨品に比べ説教色が少ないことで、かろうじて読める小説になったと思う。作家の性格の違いだろうが。とにかく、福井は語りすぎた。この作品では、日系2世は語らない。語れはしないのだ。おかれた条件が、あまりに過酷過ぎる。
2世は日本人ではない。日本人を殺す存在なのだ。殺さなくてはならない存在なのだ。日本人は兵士としての2世は殺さなくてはならない。相対立する、民族としてのアイデンテティー。
上下巻で1200ページくらいの厚さ。太平洋戦線、及びイタリア・フランス戦線の描写あたりが、一番の読ませどころか。迫力十分だから、と思った。でも、違った。最終章だ。
未読の人もいるだろうから、もっと、これ以上はくわしく書かないけれども、最終章を書くためにある小説なんだと思う。私は、地下鉄の中で、涙がブワッとあふれてきそうになったので、そこで読むのをやめた。
上下巻の初めはかったるさもあるかもしれないが、後半に従って、ドライブがかって、ページを繰るスピードが速くなる本だ。でも、やはり、文章はいかがかなと思う。 今の作家、もっと自覚的に文章のことを考えたほうがいい。あまりに、下手だ。でも、最終章ですべてを許す。
☆75点⇒まじめに生きたいんだよ、ぼくだって
同じように日系を描いた小説でデイビッド・グターソン「殺人容疑」(講談社文庫・999円)がある。こちらは、アラスカで気高く生きた日系2世を主軸に描き、工藤夕貴主演で「ヒマラヤ杉に降る雪」という映画にもなった。
![]() |
|
ヒマラヤ杉に降る雪 販売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン |
あまりに「日本人の血」などと、血を強調すると、ナチズムになってしまうのだ。だが、日系人問題から惹起される問題は多い。そのように、気高く生きたいということなんだけどね。
« 霊人亭の日々⑤ | トップページ | ジャズ、イズ⑨ »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 三国一の読書野郎2017※番外編(2017.03.04)
- 三国一の読書野郎2017⑩(2017.01.22)
- 三国一の読書野郎2017⑨(2017.01.21)
- 三国一の読書野郎2017⑧(2017.01.15)
- 三国一の読書野郎2017⑦(2017.01.14)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
面白そうだ。
読んでみよう。
「ホワイトアウト」、「ボーダー」、「防壁」などを読んだくらいだが、好きな作家の一人だ。
またいろいろ紹介して。
投稿: づかこ | 2006年6月 1日 (木) 17時55分
懐かしいですね、友達がそのアルバムを買いに行くのを付き合いましたよ。でもやっぱりプログレはスタジオ録音でなければだめですね。同時に確かアメリカの「名前のない馬」も買ったような・・・勘違いかな。
投稿: 子供部屋のドアを正拳で破壊してしまった親の会会長。 | 2006年6月 1日 (木) 19時32分
>づかこさま
面白いよ。文体は、だけだけど。でも、日系の問題は難しい。
気高く生きることって何だろうね。本当に。
>会長さま
そういえば、昔、イエスの「こわれもの」(←懐かしいなあ)をLPで聞いていたら、超常現象で、レコードがとろとろになったというのが会長じゃなかったかな? 万字の呪いか?
夜勤ご苦労さん!
投稿: 双子山 | 2006年6月 1日 (木) 23時36分
聞いていたのはイエスの「危機」ですよ。ドロドロになったものは化繊でできたじゅうたん。それと友達のコールテンのズボン。先日紙面で「万字の会」の記事が載っていましたが、会長は同級生の親父です。キングクリムソンは「ポセイドンのめざめ」が好きですね。僕の結婚式の入場曲にしたくらいです。
投稿: 子供部屋のドアを正拳で破壊してしまった親の会会長。 | 2006年6月 2日 (金) 00時47分